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冠葉と晶馬

すごくぼんやりした話になってしまった感がすごい


音も光もない闇に飲み込まれそうな夢を見て、目がさめる。
気分は、最悪だった。

窓の外を見ると、うすく闇が広がり始めた頃合いだった。
TVの声がしている。
寝こけていたちゃぶ台の上には、冷え切ったほうじ茶の湯飲みがひとつ。
台所には夕食の準備をする晶馬の姿。
陽毬は…数日前から入院して病院にいる。
これから晶馬と二人きりこの家で過ごす。
気分は、最悪だった。

立ち上がり、茶の間をあとにする。
玄関に向かう途中で、背中から晶馬の声に呼び止められた。

「どこ行くんだよ兄貴。もう夕食できるよ」
「ああ、帰ったら食う」
「また女の子のところ?」

気づけば晶馬は俺の後ろまで来ていた。
かまわず出て行こうとする俺の腕を、晶馬がつかむ。

「陽毬に顔向けできなくなるようなこと、してないだろうな」

そういって俺をにらみつける。
その表情は思い通りにならない子供が、すねているようにも見えた。
表情も俺をなじる言葉も、あまりにも稚拙だった。

「お前になにがわかる」

俺の言葉に、晶馬の答えはなかった。
拗ねたような表情は、今にも泣きだしそうな表情に変わっていた。
その表情もまた子供のようだった。

めまいのような感覚と、耳鳴り。
闇が迫ってくる感覚。飲み込まれる。

俺は晶馬の両腕をつかみ、壁に体を押し付ける。

「…痛っ…」
「お前、俺が男と寝たことがないとでも思ってるのか」

晶馬の手首を拘束したまま、耳元でつぶやく。
その言葉に、晶馬の体が硬直する。
まるで、呪いの呪文でもかけられたように、
晶馬の体は一切の抵抗をしなくなった。
拘束していた手首を離してもその場から動こうとはしなかった。
自由になった手は、ずるずると壁を伝い、力なくだらりと宙を漂う。

「そんな…こと、するなよ…やめてくれ」

目を閉じ、顔をそむけながら晶馬がつぶやく。

「金のためなんだろ?」

実際はどうだっただろうと俺は考える。
金のためだったかもしれない、単なる好奇心だったのかもしれない
ただのうさばらしだったのかもしれない。
もう今は、そのきっかけを思い出すこともできなかった。
俺にとって、男を抱くことも、男に抱かれることも
今はただ、だれでもいい。それだけのことでしかなかった。

闇にのみこまれずに、眠ることができるなら。
闇の正体は、孤独かもしれなかった。
それに勝る恐怖を俺は知らないから。

晶馬に言ったところで、理解できない理屈だろうと思った。
晶馬は闇を知らない。
晶馬は光だ。陽毬にとってたったひとつの。

晶馬がそれを自覚していることを知っている。
陽毬ために自分は清廉でありたいと願っている
そのために、そばにある闇に気づかないふりをしているのを
俺は、知っている。

晶馬の光は、俺を救うことは、ないのだと。
俺にはもうだれの光も届かない
闇から逃れるすべなど、ないのだと。

「お前にはわからない」

晶馬は泣いていた。
その姿をとてもきれいだと俺は思った。

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